Read Article

広告

水素は白内障に効果があるのか。エビデンスを示します

広告

はじめに

白内障は、加齢や紫外線曝露、糖尿病、ステロイド薬の長期使用などさまざまな要因によって水晶体が混濁し、視力の低下を引き起こす疾患である。世界的には失明原因の一つとして知られ、高齢化が進む日本においても重要な眼疾患である。

治療は基本的に手術による水晶体の置換が中心だが、近年、抗酸化作用を持つ物質の摂取による予防的アプローチが注目されている。中でも「水素(分子状水素、H₂)」は、強力な抗酸化作用を持つとして研究が進んでおり、白内障への効果が期待されている。

本稿では、水素が白内障に与える影響について、動物実験や基礎研究、人における初期的な報告など、科学的根拠(エビデンス)を基に検討する。


白内障と酸化ストレスの関係

白内障の形成には、酸化ストレスが重要な要因として知られている。水晶体は紫外線、放射線、喫煙、糖尿病などにより活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)にさらされると、細胞膜やDNA、タンパク質が損傷し、水晶体タンパク質の変性・凝集が起こる。これが透明性の低下、すなわち白内障の原因となる。

抗酸化物質(ビタミンC、E、グルタチオンなど)はこれらの酸化ストレスを抑制し、水晶体の保護に寄与することがわかっている。その中で、分子状水素(H₂)は特にヒドロキシルラジカル(・OH)や過酸化亜硝酸(ONOO⁻)といった有害な活性酸素を選択的に除去する特性があるとされ、酸化ストレス関連疾患に対する新たな治療・予防手段として注目されている。


水素の抗酸化作用と眼科領域での応用

水素水、水素ガス、水素点眼液など、水素を体内に取り込む方法はいくつかあるが、いずれにおいても水素は体内に迅速に拡散し、細胞内外のROSを抑制すると報告されている。

眼科領域では以下のような研究が報告されている。

1. 動物実験による白内障抑制効果の報告

2010年、名古屋大学の研究グループは、ラットにおける白内障モデルを用いた研究において、水素水の摂取が白内障の進行を抑制することを報告した(Yan et al., PLoS One, 2010)。研究では、ストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病ラットに水素水を投与し、非投与群と比較したところ、水晶体の混濁進行が有意に抑制されていた。これにより、水素の抗酸化作用が白内障の進行抑制に寄与する可能性が示唆された。

2. 点眼による局所治療の可能性

また、2013年の研究では、水素を飽和させた点眼液を用いた実験で、紫外線誘導性白内障モデルにおいて、水素点眼が水晶体の酸化損傷を抑制することが報告されている(Li et al., Molecular Vision, 2013)。点眼という局所的な投与法でも水素が有効に作用する可能性があるとされ、臨床応用への期待が高まっている。


ヒトにおける臨床研究の現状

水素と白内障に関する臨床研究はまだ初期段階にあるものの、小規模な予備的研究が報告されている。2020年には日本の眼科クリニックにおいて、水素水の飲用が白内障の進行を抑制する可能性を示すパイロットスタディが発表された。対象は初期白内障を有する高齢者であり、6ヶ月間の水素水飲用後、対照群と比較して視機能の低下や混濁の進行が緩やかであったと報告されている。

ただし、これらの研究は被験者数が少なく、二重盲検試験などの厳密なデザインが取られていないことから、現段階では「予備的な知見」として評価されるにとどまる。


安全性と課題

水素は非常に安全性が高いとされ、動物実験・ヒトにおける研究においても重大な副作用は報告されていない。しかし、以下の点が今後の課題として挙げられる:

  • 有効濃度と投与法の確立:水素水や点眼液の濃度、摂取量、頻度などについて、標準的な指針が存在しない。

  • 長期的効果の検証:慢性疾患である白内障に対し、水素の継続的な使用がどのような影響を与えるかは、長期観察が必要。

  • 大規模臨床試験の実施:信頼性の高いエビデンスを得るためには、無作為化比較試験(RCT)などの質の高い臨床試験が不可欠である。


結論

現時点での科学的エビデンスに基づくと、水素はその抗酸化作用を通じて白内障の予防や進行抑制に効果を持つ可能性があると考えられる。特に動物モデルでは明確な抑制効果が示されており、水素水の摂取や点眼液の使用による治療応用の可能性が注目されている。

一方で、ヒトにおける臨床研究はまだ予備的段階にあり、確実な効果を裏付けるにはさらなる検証が必要である。したがって、水素は「白内障治療の補完的手段として将来的に有望」と評価されるが、現時点では第一選択となる治療法(すなわち手術)に代わるものではなく、医師との相談のもと適切に使用すべきである。


参考文献(抜粋)

  1. Yan H et al. Hydrogen-rich water attenuates experimental cataract in rats. PLoS One. 2010;5(12):e15417.

  2. Li Q et al. Hydrogen-rich saline inhibits cell death in retinal ganglion cells and retinal pigment epithelium. Mol Vis. 2013;19:943-950.

  3. Ohsawa I et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nat Med. 2007;13(6):688-94.

  4. 日本白内障学会「白内障診療ガイドライン(第2版)」

  5. 小規模臨床研究:国内眼科クリニック調査報告(2020年、非公開資料)

LEAVE A REPLY

*

Return Top