水素水は眼圧を減らすか？科学的エビデンスから検証

水素水ブームと眼圧の関係

近年、水素水は「奇跡の水」として注目を集めています。抗酸化作用が期待され、疲労回復、美容、アンチエイジングなどに効果があると宣伝されています。特に、健康意識の高い人々の間で、眼の健康への応用が話題になっています。眼圧（intraocular pressure, IOP）が高くなると緑内障などのリスクが増すため、水素水が眼圧を下げる可能性が期待されています。しかし、これは本当でしょうか？ここでは、科学的な研究エビデンスを基に検証します。

記事では、水素水の基本から眼圧のメカニズム、関連研究の結果までを詳しく解説し、過度な期待を避けたバランスの取れた視点を提供します。全体として、直接的な眼圧低下効果の証拠は限定的ですが、眼科全体の保護効果を示唆するデータがあります。

眼圧とは何か：基礎知識と健康への影響

眼圧とは、眼球内の房水（aqueous humor）の圧力のことです。正常値は10-21mmHgで、これを超えると高眼圧症となり、視神経を圧迫して緑内障を引き起こす可能性があります。緑内障は世界で2番目に多い失明原因で、日本では40歳以上の5%が罹患しています。眼圧の上昇要因は加齢、遺伝、ストレス、糖尿病など多岐にわたり、生活習慣の改善が予防の鍵です。

治療は点眼薬や手術が主流ですが、自然療法として水素水が注目されています。水素水は、水に水素分子（H2）を溶かしたもので、抗酸化作用が強いとされ、活性酸素を除去して細胞を保護します。眼圧が高くなるのは、房水の産生過多や排出不良が原因で、水素がこれに影響を与える可能性が研究されています。

水素水のメカニズム：眼圧低下の可能性

水素水の健康効果は、2007年のNature Medicine誌の論文で、水素が活性酸素を選択的に除去することが明らかになってからブームになりました。眼科分野では、水素が酸化ストレスを軽減し、網膜や視神経を保護する研究が進められています。例えば、分子水素が緑内障モデルで視神経損傷を防ぐ効果が報告されています。

眼圧との関係では、水素が血管拡張や抗炎症作用で房水の循環を改善する仮説があります。動物実験では、水素水投与で眼圧関連の炎症マーカーが低下した例がありますが、人間での直接証拠は少ないです。2023年のレビュー論文では、水素が複数の眼科疾患に保護効果があるとまとめられていますが、眼圧低下の具体例は限定的です。

肯定的なエビデンス：水素水が眼圧に与える影響

いくつかの研究で、水素水の眼科効果が示唆されています。ARVO 2023の研究では、水素水が2型糖尿病マウスの網膜血流を改善し、眼圧関連のdysregulationを軽減したと報告されました。これは、水素が酸化ストレスを抑え、血管機能を向上させるためです。別の動物モデル研究では、水素水飲用が光受容体構造を保護し、眼圧上昇による損傷を防いだ結果があります。

人間では、2023年の臨床研究で、水素水摂取が眼圧に有意な変化を与えなかったものの、網膜厚や脈絡膜厚に影響なしとされ、安全性が確認されました。また、アルカリ焼けの角膜モデルで、水素が血管新生を抑制し、眼圧の一時的上昇を防ぐ可能性が指摘されています。これらの研究は、水素水が間接的に眼圧を安定させる効果を暗示しますが、直接の低下証拠ではありません。

否定的な見解：眼圧増加のリスクと限界

一方で、水素水が眼圧を増加させる可能性を示す研究もあります。2023年の研究では、健康被験者に水素水1260mlを急速摂取させたところ、眼圧が最大2.7mmHg上昇しました。これは、水素水だけでなくプレセボ（水素なし水）でも同様で、水分摂取による一時的な眼圧上昇（水負荷試験の影響）と結論づけられています。緑内障患者ではこの上昇がリスクになる可能性があります。

また、別の臨床研究では、水素水飲用前後で眼圧に有意差なしとされ、効果が確認されませんでした。水素水のエビデンスは動物実験が多く、人間でのランダム化比較試験（RCT）が不足しています。PubMedのレビューでは、水素の眼科利用は有望ですが、眼圧低下の証拠は不十分とされています。過剰摂取による口渇や消化不良の副作用も考慮が必要です。