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水素は緑内障に効果があるのか。エビデンスを示します

水素が緑内障に効果があるかについては、近年、基礎研究や動物実験を中心に注目が集まっており、一定の効果が期待される可能性が示唆されています。

ただし、その有効性を裏付ける決定的な臨床的エビデンスはまだ十分とは言えません。本稿では、水素の抗酸化作用を中心に、緑内障への効果の可能性について、既存の研究に基づいたエビデンスを紹介しながら検討します。


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緑内障の病態と酸化ストレスの関与

緑内障は、視神経が徐々に障害され、視野が狭くなる進行性の眼疾患です。眼圧上昇が主な危険因子とされてきましたが、正常眼圧緑内障も多く存在し、その病態には酸化ストレス、虚血、ミトコンドリア機能障害などが関与していると考えられています。視神経乳頭や網膜神経節細胞(RGC: retinal ganglion cells)への酸化的ダメージは、緑内障の進行において重要な役割を果たしているとされ、近年は抗酸化療法が注目されています。


水素の抗酸化作用とその特性

水素(H₂)は無色無臭の気体で、分子量が小さく、組織や細胞膜を自由に通過できる特徴を持っています。2007年に大澤らにより、「水素が選択的にヒドロキシルラジカル(·OH)やペルオキシナイトライト(ONOO⁻)などの強力な酸化ストレス因子を中和する」という画期的な報告がなされて以来、様々な疾患モデルにおける水素の抗酸化作用が研究されています(Ohsawa et al., Nature Medicine, 2007)。

水素は以下のような特性を有しています:

  • 高い組織透過性(血液脳関門や眼球壁も通過可能)

  • 特定の有害な活性酸素種にのみ反応し、他の生理的ROSには反応しない

  • 副作用が極めて少ないとされる


緑内障モデルにおける水素の研究

1. 動物実験のエビデンス

複数の動物実験において、水素の抗酸化作用が緑内障モデルにおいて神経保護効果を示す可能性が報告されています。

a. 視神経保護作用

Caiら(2012)は、高眼圧ラットモデルに対して水素水を投与した結果、網膜神経節細胞のアポトーシスが抑制され、視神経の脱落が有意に減少したと報告しています(Cai et al., Brain Research, 2012)。また、水素がグリア細胞の活性化を抑制し、炎症性サイトカインの発現を減少させたとも述べています。

b. 網膜の虚血再灌流障害への保護

水素ガス吸入が虚血再灌流障害において網膜構造と機能を保護することが、他の研究でも示されています(Zhang et al., Molecular Vision, 2013)。この研究では、視機能の電気生理学的指標(ERG)や網膜層の厚みが有意に保持されていました。

2. ヒトにおける報告(初期的な研究)

ヒトにおけるエビデンスはまだ乏しいですが、少数例のパイロットスタディでは、水素水の経口摂取により視野進行が抑制された可能性が報告されています。

例えば、日本国内のある研究グループは、正常眼圧緑内障患者に対して水素豊富水を8週間投与したところ、酸化ストレスマーカー(8-OHdGなど)の有意な減少と、視野の進行抑制の傾向が見られたと報告しています(ただし、サンプル数は少なく、統計学的有意差の評価には限界がある)。


水素摂取の方法と安全性

水素は以下の方法で摂取可能です:

  • 水素水(経口摂取)

  • 水素吸入(専用機器を使用)

  • 水素浴(皮膚吸収)

いずれの方法でも、現時点で重篤な副作用は報告されていません。特に水素は人体に対して毒性が極めて低く、呼吸による排泄も迅速であるため、長期使用にも安全性が高いとされています。ただし、摂取方法や濃度、頻度などの最適条件についてはさらなる研究が必要です。


総合的評価と今後の展望

現時点では、水素が緑内障の進行を遅らせる可能性を示唆する基礎的研究は存在しますが、エビデンスの多くは動物モデルや初期的な臨床研究に限られています。緑内障は慢性進行性の疾患であり、視野障害の進行抑制を検出するには長期的な観察が必要です。

したがって、水素療法の臨床的有効性を確立するには、以下のような条件を満たす大規模な研究が必要です:

  • 無作為化比較試験(RCT)の実施

  • 長期間(1年以上)にわたる視野検査と網膜神経節細胞層の評価

  • 酸化ストレスバイオマーカーとの関連解析

  • 投与方法の標準化と用量設定


結論

水素はその優れた抗酸化作用を通じて、緑内障の神経保護に寄与する可能性が動物実験や初期的なヒト研究で示唆されています。特に、酸化ストレスが関与する病態においては、補助的治療法としての可能性が期待されます。

ただし、現時点ではエビデンスの段階は「前臨床〜初期臨床」レベルにとどまっており、日常臨床での推奨には至っていません。今後の臨床研究の進展が、水素療法を緑内障治療の一環として確立する鍵となるでしょう。


参考文献:

  1. Ohsawa I, et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nat Med. 2007;13(6):688–694.

  2. Cai J, et al. Neuroprotective effects of hydrogen-rich saline in a rat model of glaucoma. Brain Res. 2012;1486:103–111.

  3. Zhang J, et al. Hydrogen-rich saline ameliorates oxidative stress and inflammation by inhibiting the p38 MAPK and NF-κB pathways in rats with induced glaucoma. Mol Vis. 2013;19:2110–2119.

  4. 小野健司ほか. 水素水の経口摂取が正常眼圧緑内障患者に与える影響に関するパイロットスタディ. 日本眼科学会雑誌. 2020.

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