Read Article

広告

胃癌になってしまう人の生活習慣と胃癌の原因:エビデンスに基づく分析

胃癌(胃がん)は、世界的に見ても依然として高い罹患率と死亡率を誇る悪性腫瘍であり、特に東アジア、特に日本においては重要な公衆衛生上の問題である。日本では早期発見が進んでいる一方で、依然として進行胃癌で診断される症例も少なくない。

胃癌の発症には、遺伝的素因だけでなく、日常生活の中で繰り返される生活習慣が大きく関与していることが、数多くの疫学的研究から明らかにされてきた。本稿では、胃癌になってしまう人に共通する生活習慣を、科学的エビデンスに基づいて多角的に分析する。

広告

1. ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染と胃癌の関連

胃癌の最大の危険因子は、**ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)**感染である。WHOは1994年にH. pyloriを「グループ1の発がん因子」に分類し、その後も多数の研究でこの細菌の慢性感染が胃炎、胃潰瘍、さらには胃癌(特に腺癌)へと進行することが報告されている。日本では50歳以上の人口の過半数がH. pyloriに感染しているとされ、そのために胃癌罹患率が他国に比べて高くなっている。

この感染は通常、幼少期に家庭内での口腔−口腔感染や水・食物を通じて起こる。衛生環境が不十分だった昭和期以前に育った世代に感染率が高いことがその証左である。生活習慣としては、「不衛生な食環境」「共同の食器使用」などが感染のリスクを高める要因となっている。

2. 食生活:塩分、加工食品、野菜摂取量との関係

高塩分食

塩分の過剰摂取も胃癌の危険因子として知られている。日本人の伝統的な食事には、漬物、味噌汁、干物、醤油など塩分を多く含む食品が多く含まれる。塩分は胃粘膜を直接刺激し、H. pyloriの持続感染を助長する。また、塩分そのものが胃粘膜を障害し、発癌性物質に対する感受性を高めるとされている。

国立がん研究センターの研究によると、1日12g以上の食塩摂取は、胃癌のリスクを男性で約2倍に高めるという結果が報告されている。

加工食品と保存食品

ハム、ベーコン、ソーセージなどの加工肉、あるいは塩漬けの魚や漬物に含まれるニトロソ化合物も、胃癌リスクを高めるとされている。これらの化合物は胃内で発癌物質に変化しやすく、特に胃酸の分泌が低下している中高年層ではその影響が顕著である。

野菜・果物摂取の不足

一方で、緑黄色野菜や果物に多く含まれるビタミンCや食物繊維、抗酸化物質は胃癌の予防因子として働く。野菜や果物の摂取が少ない生活習慣は、胃癌リスクを相対的に高める。ビタミンCはニトロソ化合物の生成を抑制し、胃粘膜を保護する作用があるとされている。

3. 喫煙と胃癌の関係

喫煙は様々ながんのリスク因子であり、胃癌も例外ではない。たばこに含まれる発癌性物質(例えばニトロソアミンやベンゾピレン)は胃粘膜に直接作用し、またH. pylori感染による胃炎の悪化にも関与する。大規模な前向き研究(JPHC Study)では、喫煙者は非喫煙者に比べて胃癌発症リスクが約1.5倍〜2倍高いことが報告されている。

特に長期間にわたる喫煙習慣1日20本以上の喫煙が高リスク群とされ、喫煙の累積量が多いほどリスクは増加する。

4. アルコール摂取

アルコールと胃癌との関連性については議論があるが、エタノールが胃粘膜を荒らし、慢性的な炎症を引き起こすことは間違いない。さらに、高濃度のアルコール摂取は胃酸分泌や胃粘膜の防御機能を乱し、胃炎や潰瘍の原因となる。

また、肝機能に影響を及ぼすような過剰飲酒は、体全体の免疫機能を低下させ、発癌リスクを高めるという間接的な関連もある。

5. 不規則な食生活とストレス

現代社会では、朝食を抜く、夜遅くに食べる、早食い、満腹まで食べるといった不規則な食生活が日常化している。こうした習慣は消化器への過度な負担を与え、胃の機能低下を招く。特に夜食や深夜の飲酒は、胃の蠕動運動を妨げ、胃酸の逆流を引き起こすなど悪影響を及ぼす。

また、ストレスも胃粘膜を荒らし、胃酸分泌を過剰にしたり抑制したりするなどの生理的変化をもたらす。ストレスがH. pylori感染や胃粘膜障害を悪化させる間接的な因子となることも指摘されている。

6. 胃癌予防のために見直すべき生活習慣

上記のようなリスク因子は、遺伝的なものではなく、日常の習慣に根ざした可変的要因が多い。したがって、以下のような生活習慣の改善は胃癌予防に非常に有効である。

  • H. pylori感染の早期診断と除菌治療

  • 塩分摂取量の制限(1日6g未満を目指す)

  • 加工食品や保存食品の摂取頻度を減らす

  • 野菜や果物を積極的に摂る

  • 禁煙、節酒

  • 規則正しい食事と十分な睡眠

  • 定期的な胃内視鏡検診(特に40歳以上)

おわりに

胃癌は「生活習慣病」であると同時に、「感染症に起因するがん」であるという特異な側面を持つ。H. pylori感染に加えて、日々の食生活や喫煙・飲酒など、我々の習慣が積み重なることで発症リスクが増加していく。逆に言えば、これらを意識的に見直すことによって、胃癌の発症を大きく抑制することが可能である。

科学的エビデンスに基づいた予防策を実践することで、胃癌の罹患率と死亡率を着実に減少させることができる。私たち一人ひとりが生活習慣を見直すことこそが、胃癌対策の第一歩である。

LEAVE A REPLY

*

Return Top