インプラントによる顎関節症リスクは最大の課題か？最新エビデンスと考察

歯科インプラントは、失った歯を補う治療法として世界中で普及しています。見た目の自然さ、噛む力の回復、隣接する歯を削らずに治療できるなど、多くの利点があるため、ブリッジや入れ歯に代わる「第三の歯」として注目されてきました。

しかし一方で、インプラントには「顎関節症（がくかんせつしょう）」との関係が指摘されることがあります。特に、咬合（かみ合わせ）の不調和が生じた場合、顎関節に負担がかかり、頭痛・肩こり・口の開閉の異常といった症状につながることがあります。

本記事では、「インプラントと顎関節症リスク」 について詳しく解説します。

顎関節症とは何か？

顎関節症（Temporomandibular Disorder：TMD）は、顎の関節や筋肉に起こる障害の総称です。以下のような症状が代表的です。

顎を動かすとカクカク音がする（関節雑音）
口を大きく開けられない、または痛みがある
噛むと顎やこめかみが痛む
慢性的な頭痛や肩こり

顎関節症は、歯ぎしり、ストレス、外傷、咬合不全（かみ合わせの乱れ）など、さまざまな原因で発症します。その中でも、歯科治療、とりわけインプラント治療との関連が議論されています。

インプラントと顎関節症の関係性

咬合のバランスがカギ

インプラントは天然歯とは異なり、歯根膜（しこんまく）という感覚センサーを持ちません。天然歯は噛むときにわずかな圧力を感知して「噛み過ぎ」を防ぎますが、インプラントにはそれがないため、過剰な力がかかっても気づきにくいという特徴があります。

このため、インプラントのかみ合わせがわずかにずれているだけでも、顎関節や周囲の筋肉に負担が集中し、顎関節症のリスクを高める可能性があるのです。

歯列全体への影響

インプラントは失った歯を補う治療法ですが、咬合の調整を誤ると歯列全体のバランスが崩れます。1本のインプラントが不自然な高さで装着されると、他の歯に過剰な力がかかり、顎関節症を誘発することがあります。特に奥歯のインプラントは咀嚼力が大きく、関節への影響が顕著です。

インプラントと顎関節症に関するエビデンス

海外研究の報告

スウェーデンの研究：インプラント治療を受けた患者の中で、適切な咬合調整を行った場合は顎関節症のリスクは有意に増加しなかったが、不適切な咬合があるとリスクが高まることが示されました。
アメリカの臨床調査：インプラント患者の約15〜20%に顎関節関連の症状が見られ、その多くが咬合不良や歯ぎしりとの併発によるものでした。

日本国内のデータ

日本顎関節学会の報告では、インプラントが直接的に顎関節症を引き起こす明確なエビデンスは限定的であるとされています。ただし、咬合調整の不備や患者の生活習慣が重なるとリスクは上昇することが強調されています。

インプラントによる顎関節症リスクが指摘される理由

歯根膜がないことによる力の分散不足
インプラントは直接骨と結合するため、噛んだときの衝撃を吸収する機能が弱く、関節に力が集中しやすい。
歯ぎしり・食いしばりの影響
インプラントは天然歯よりも動きが少ないため、歯ぎしりや食いしばりによる強い力がダイレクトに顎関節に伝わる。
治療計画や技術の差
インプラント手術の計画段階で、噛み合わせや骨の状態を正しく分析しないと、顎関節症のリスクが増加する。

顎関節症の発症リスクを減らすには？

歯科医の役割

精密な診査と診断（CTや咬合分析の活用）
咬合調整を慎重に行うこと
定期的なメンテナンスによる噛み合わせの再確認

患者ができること

指示された通りに定期健診を受ける
歯ぎしりがある場合はマウスピースを活用する
顎関節に負担をかける習慣（片噛み、強い食いしばり）を避ける
顎の違和感や頭痛を感じたら早めに相談する

インプラント治療と顎関節症の未来

近年、デジタル技術やAIを活用した咬合診断が進歩し、インプラントによる顎関節症リスクは徐々に低減しつつあります。また、咬合に配慮した設計を行うことで、リスクを大きく下げられることが分かってきました。

ただし、完全にゼロにはできないため、インプラントを検討する際には顎関節症のリスクを理解し、信頼できる歯科医院で治療を受けることが重要です。

まとめ

インプラント治療は、歯を失った患者に大きな恩恵をもたらします。しかし、その一方で「顎関節症のリスク」が存在することも事実です。エビデンスによれば、インプラントそのものが顎関節症の直接原因となることは少ないものの、咬合不良や歯ぎしり、生活習慣の影響と組み合わさるとリスクが高まるとされています。