はじめに
高齢になると多くの人が抱える悩みの一つに「膝痛」があります。特に60歳以上の男女では、膝の違和感や痛みを訴える人が急増し、歩行や階段の昇降が困難になることで日常生活に大きな支障をきたします。
膝痛は単なる加齢現象と思われがちですが、実際には「変形性膝関節症」をはじめとする疾患が背景にあることが多く、適切な治療や生活習慣の改善で進行を遅らせることが可能です。
本記事では、老人に多い膝痛の原因、従来の治療法に加え、注目されている再生医療「PRP療法」についても詳しく解説します。
老人に多い膝痛の主な原因
1. 変形性膝関節症(OA)
高齢者の膝痛で最も多い原因が「変形性膝関節症」です。膝関節の軟骨がすり減り、骨と骨が直接ぶつかることで痛みや炎症が生じます。初期では膝のこわばりや軽度の痛みだけですが、進行すると関節が変形し、歩行が難しくなることもあります。
2. 半月板損傷
若い頃にスポーツをしていた人や、長年膝に負担をかけてきた人では、半月板の損傷が原因となることがあります。高齢になると自然に半月板が脆くなり、日常生活の動作でも損傷することがあります。
3. 関節リウマチ
免疫異常によって関節に炎症が起きる病気です。高齢発症のケースもあり、膝の痛みや腫れが長期間続きます。
4. 筋力低下による膝関節への負担
加齢とともに大腿四頭筋やハムストリングなど、膝を支える筋肉が衰えることで、関節に過剰な負担がかかり痛みが生じます。
5. 肥満や生活習慣
体重増加は膝に直接的な負担を与えます。特に肥満は変形性膝関節症のリスクを高める大きな要因とされています。
膝痛の症状と進行
膝痛は進行度によって症状が変化します。
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初期:膝の違和感、立ち上がりや歩き始めの痛み
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中期:歩行中や階段の昇降で強い痛み、膝の腫れ
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末期:安静時にも痛みが続き、関節が変形して歩行困難
進行性の病気であるため、早期発見と治療が極めて重要です。
老人の膝痛に対する一般的な治療法
1. 保存療法
薬物療法
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消炎鎮痛薬(NSAIDs)
膝の炎症を抑え、痛みを軽減します。ただし長期使用は胃腸障害や腎機能低下のリスクがあります。 -
湿布や外用薬
副作用が少なく、局所的な痛みの軽減に効果的です。
運動療法
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大腿四頭筋の強化
太ももの筋肉を鍛えることで膝関節への負担を軽減します。 -
ストレッチ
関節の柔軟性を維持し、動作時の痛みを和らげます。
生活習慣改善
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体重管理:膝への負担を減らす最大の方法。
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杖やサポーターの活用:歩行を補助し、関節の負担を軽減します。
2. 注射療法
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ヒアルロン酸注射
関節内の潤滑を改善し、痛みを和らげます。軽度から中等度の膝痛に効果的です。 -
ステロイド注射
炎症を強力に抑える効果がありますが、繰り返しの使用は関節軟骨の劣化を招く可能性があります。
3. 外科的治療
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関節鏡手術
損傷した半月板や骨の突出部分を取り除きます。 -
人工膝関節置換術(TKA)
重度の変形性膝関節症では、人工関節を入れる手術が行われます。
注目されるPRP療法とは?
PRP療法の概要
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法とは、自分の血液を採取し、遠心分離して血小板を高濃度に含む血漿を抽出し、それを膝関節に注射する再生医療の一種です。
血小板には「成長因子」と呼ばれる組織修復を促す物質が多く含まれており、損傷した軟骨や靭帯、腱の修復を促進すると考えられています。
PRP療法の特徴
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自己血液を利用するため安全性が高い
拒絶反応や感染リスクが低いとされています。 -
炎症の抑制と組織修復の促進
関節内の炎症を抑えるだけでなく、組織の再生をサポートします。 -
副作用が少ない
まれに注射部位の腫れや痛みが出る程度で、長期的な副作用は少ないとされます。
高齢者の膝痛にPRP療法は有効か?
複数の研究では、変形性膝関節症の患者にPRP注射を行うと、ヒアルロン酸注射よりも痛みの軽減や機能改善が長期間続く可能性があると報告されています。特に軽度から中等度の症状に効果が高いとされます。
ただし、PRPはまだ保険適用外の自由診療であり、1回あたり数万円から十数万円の費用がかかる点が課題です。また、進行が進んだ重度の関節症では効果が限定的とされます。
その他の新しい治療法
幹細胞治療
脂肪由来や骨髄由来の幹細胞を膝に注入し、組織の修復を促す治療です。研究段階ですが、PRPと並んで注目されています。
高周波治療
神経の痛み伝達を遮断することで膝痛を軽減する方法。手術を避けたい高齢者に選ばれることがあります。
高齢者ができる予防とセルフケア
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ウォーキングや水中運動:膝に負担をかけずに筋力を維持。
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正しい姿勢での生活:和式の生活より椅子の生活の方が膝への負担が少ない。
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栄養管理:コラーゲン、ビタミンD、カルシウムを意識した食事。
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適切な靴選び:クッション性の高い靴で関節の負担を軽減。
まとめ
老人に多い膝痛の原因は、変形性膝関節症を中心に、半月板損傷や筋力低下などさまざまです。治療は薬物療法やリハビリ、ヒアルロン酸注射、人工関節手術など従来の方法に加えて、再生医療の一つであるPRP療法が注目されています。
特に初期から中期の膝痛に対しては、痛みを和らげ、生活の質を向上させる効果が期待できます。
膝痛は放置すると進行してしまうため、早めの診断と適切な治療が重要です。高齢になっても自立した生活を続けるために、予防と治療の両面から膝の健康を守りましょう。

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