トランス脂肪酸は、心血管疾患をはじめとするさまざまな健康リスクを引き起こす原因とされています。そのため、多くの国々ではトランス脂肪酸の使用を制限または規制しています。以下に、トランス脂肪酸がなぜ規制されているのか、またそのエビデンスについて詳しく説明します。
1. トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸は、脂肪の化学構造において、炭素-水素結合が反対向きに配置された異性体の脂肪酸の一種です。主に、工業的に水素化された植物油(部分水素化油)から生成されます。これにより、油の状態が固体に近づき、保存性が向上するため、食品産業で広く使用されてきました。
トランス脂肪酸は、以下の2つのタイプに分類されます:
- 天然トランス脂肪酸: ruminant animals(反芻動物)から得られるもので、牛肉や乳製品に含まれます。量は比較的少ないです。
- 人工トランス脂肪酸: 部分水素化された植物油に由来し、マーガリン、スナック菓子、揚げ物、加工食品に広く使用されています。
2. トランス脂肪酸と健康リスク
トランス脂肪酸が健康に与える影響については、数十年にわたる研究によって明確な証拠が得られています。特に、心血管疾患や慢性疾患に関連するリスクが高いことが指摘されています。主な健康リスクは以下の通りです。
2.1 心血管疾患のリスク
トランス脂肪酸は、血液中の悪玉(LDL)コレステロールを増加させ、善玉(HDL)コレステロールを減少させる作用があります。これにより、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めることが知られています。以下の研究がその証拠となります:
- 2006年のアメリカ心臓協会(AHA)の報告によると、トランス脂肪酸の摂取量が増えることで、冠動脈疾患(CAD)のリスクが25~30%増加するとされています。
- **2008年のメタアナリシス(Lancet誌)**では、トランス脂肪酸の摂取が心臓疾患の発症リスクを直接的に高めることが示されました。これは、トランス脂肪酸がLDLコレステロールを増加させることに起因しています。
2.2 糖尿病のリスク
トランス脂肪酸はインスリン感受性を低下させ、糖尿病を引き起こすリスクを増大させる可能性があります。以下のエビデンスがその根拠となります:
- 2007年のアメリカ糖尿病学会の研究では、トランス脂肪酸が糖尿病の発症に関連していることが確認されました。特に、トランス脂肪酸の摂取がインスリン分泌に悪影響を及ぼし、糖尿病のリスクを増大させることが示唆されています。
2.3 慢性炎症
トランス脂肪酸は慢性炎症を引き起こす可能性があり、これが多くの疾患のリスクを高める原因となります。慢性炎症は、がんや神経疾患などの発症にも関与しています。例えば、以下の研究結果があります:
- 2011年の英国の研究によると、トランス脂肪酸の摂取が、体内の炎症マーカーを増加させることが明らかになりました。このことが、トランス脂肪酸の摂取が慢性疾患のリスクを増加させるメカニズムの一部であるとされています。
3. 各国での規制
トランス脂肪酸が健康に与える影響が明らかになると、多くの国々は規制を導入しました。規制の方法は様々で、以下のような方法が一般的です。
3.1 制限量の設定
多くの国々では、トランス脂肪酸の摂取量を制限する法規制が導入されています。例えば、アメリカ合衆国では2015年に、食品中の部分水素化油脂(トランス脂肪酸)を使用することを事実上禁止する規制が発表されました。この規制では、トランス脂肪酸の使用が健康に悪影響を与えるため、これを段階的に排除する方針がとられています。
また、デンマークは2004年にトランス脂肪酸の摂取量を総脂肪の2%以下に制限する規制を導入し、その後他国にも影響を与えました。この規制により、デンマークはトランス脂肪酸による健康リスクを劇的に減少させました。
3.2 トランス脂肪酸の表示義務
トランス脂肪酸を含む食品に対して、パッケージにその含有量を表示する義務を課す国もあります。アメリカ合衆国やカナダでは、2006年に食品表示法が改正され、トランス脂肪酸の含有量を明記することが義務付けられました。このような表示義務により、消費者はトランス脂肪酸の摂取量を自ら管理できるようになり、トランス脂肪酸を避ける動きが強まりました。
3.3 禁止措置
一部の国では、トランス脂肪酸を完全に禁止する動きもあります。例えば、ニューヨーク市は2006年に、レストランでのトランス脂肪酸の使用を禁止する規制を導入しました。また、チリでは、2018年にトランス脂肪酸を含む食品の販売を禁止する法案が通過しました。
4. 日本における状況
日本では、トランス脂肪酸に関する規制は他国と比べて緩やかであり、特に強い法的規制は存在しません。しかし、いくつかの政策やガイドラインはあります。たとえば、日本食品標準成分表には、トランス脂肪酸の摂取量が記載されており、消費者に対する情報提供がなされています。また、日本の厚生労働省は、トランス脂肪酸を含む食品の摂取を減らすように勧告しています。
とはいえ、日本では他国に比べてトランス脂肪酸に対する規制が比較的緩いため、国民の意識向上や業界の自発的な改善が求められる状況にあります。
5. 結論
トランス脂肪酸は、心血管疾患や糖尿病、慢性炎症など、さまざまな健康リスクを引き起こすことが多くの研究で証明されています。このため、世界中で規制が強化されており、トランス脂肪酸の使用を制限することが健康促進につながると考えられています。日本でも今後、規制やガイドラインの強化が期待されるところです。
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