この記事は50代の女性に書いていただきました。
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私の自宅そばに、精神障害者が優先的に入居できる公営住宅があります。この地域は本来、普通の団地として街つくりがなされたところですが団地に住む住民が次第に高齢化して、空き家が目立ち始めたこともあり、行政が主体となって住居探しが困難を極めがちな精神障害者への施策がなされているのです。
先日私が近所のスーパーに買い物に行ったところ、この公営住宅に入居中の、顔見知りの精神障害者の男性が両手に多量の缶コーヒーの入った袋を下げておられました。本日はたまたま缶飲料のバーゲンで、安かったのでつい30本も買った…とおっしゃっていました。
かつて私が通っていた精神科デイケアでの缶コーヒー依存の実態
マスコミで取り上げられることもない話題なので、一般の方は余りご存じないかと思いますが、向精神薬の副作用のひとつとして甘い缶コーヒーの過剰摂取という問題があります。
「チェーンスモーキング」というのがありますが、なぜか向精神薬を服用していると、まさしく「チェーン缶コーヒー」状態に嵌まります。精神科に入院経験のある患者さんならば、経験的に自覚されている有名な副作用のひとつです。
私は病状がひどい時で一日平均10本缶コーヒーを飲みましたが、これは少ないほうかもしれません。デイケアのメンバーの中には一日20本以上というツワモノも多くいました。
精神障害を事由に受給している年金も、その殆んどが缶コーヒーとタバコに消えてしまうのですが、私たちデイケアメンバーは文字通り「缶コーヒー依存症」といってもおかしくない状態で、自分でもコントロールできないほど苦しい状況に陥ってしまうのです。
実際に、私の通っていたデイケアでは、缶コーヒーの依存によって脳髄液が薄まって意識不明になったことが原因で、ふたりの方が亡くなりました。
味の濃い缶コーヒーは向精神薬の副作用からくる「水が飲みたい」要求をさらなる満足感で満たしてくれるのですが、カフェインが多く含まれているため、普通の水以上に身体に影響を及ぼして死に至りやすくさせます。
さらに単純に水分の摂り過ぎによって脳髄液が薄まり、意識を失う危険性が高いだけではなく、缶コーヒーには相当量の糖分が含まれています。それだけの糖分を毎日摂っていれば、自ずと糖尿病のリスクも高くなるという可能性は否定できないでしょう。
缶コーヒー依存症の離脱症状
デイケアで他メンバーに馴染むことによって、缶コーヒーの多量摂取に対する感覚がおかしくなりました。これはまずいと思った私は、結果的に自身も缶コーヒーがやたら飲みたくなる遠因となるデイケアへの通所を辞めました。デイケアを離れた私は、コーヒーを飲まない人達と付き合い、どうにか缶コーヒーをやめることが叶いました。
しかしながら、依存症である以上当然離脱症状も生じます。私はしばしば多量の水が飲みたくてたまらなくなってしまい、挙句の果て、水中毒のために脳髄液が薄まってせん妄に陥ってしまうことが幾度もありました。
離脱症状が表出すると、それこそトイレの水ですら飲みたくなって我慢できなくなります。私は精神科の入院を繰り返しましたが、水中毒での入院の場合、必ず保護室に隔離され、トイレの水は自分で流せないように外から止められてしまいました。
用を足したらブザーでスタッフに知らせ、やっと汚物を流せるといったシステムなのですが、もしも自分で水が流せたなら、きっと水飲みたさに本当に便器に顔を突っ込んでしまったでしょう。それくらい苦しみました。
缶コーヒーへの依存は形を変えて今も自身を苦しめる
缶コーヒーこそやめられた私ですが、自身のなかの満たされない欲求は次に紅茶への依存に形を変えました。あるクラウドソーシングに登録した際に、私はライティング効率を上げたいばかりに、延々紅茶を淹れ続けてはガンガン飲みまくりました。
多量に紅茶を飲みさえすれば…すごくハイテンションになれる私は、それこそ気分もよく頭も冴えわたる感じがして、自分でもあり得ないほど作業が進むのです。
その代わり一週間後、私は水中毒を起こし、意識不明になって倒れました。救急病院に緊急搬送された私は、髄液が薄まったことによる意識の混迷も含め、全身状態が悪くなっていて、集中治療室での加療が必要な状態でした。結局、精神科病棟での治療は難しいと判断され、私は一般科に入院となりました。
水への依存がひどくて職まで失うケースも
理由はわかりませんが、精神科の薬を長期服用すればするほど水が飲みたくなります。向精神薬自体、程度の差はあっても必ず口渇を生じるという副作用があります。
とにかく口が乾いて不快なので、かつて勤めていた頃の私には仕事中だろうと我慢できなくなってしまい、オフィスの給湯室に入り浸ってはひたすら水道水を飲んでいた記憶もあります。当然仕事に支障が出るのですが、そんな問題もおかまいなしです。
水飲みたさに給湯室から離れられなくなって数ヶ月後、私は職を失いました。余り問題にもされていませんが、水への依存はそれくらい本当は深刻なものなのです。
あれほど水中毒による入院加療が苦しかったにもかかわらず、私は現在でも一日10リットル以上の水分が欲しくなります。水のみならず、紅茶や緑茶などカフェインの多い飲み物は、私のコントロール不能な欲求を満たしてくれるので、良くないとは分かりつつも未だに手放せません。
買い物の際に会った精神疾患を有する彼がバーゲンで買ったという、両手に下げた多量の缶コーヒーの入った袋を見て、私は改めて水中毒の恐怖を再認識させられました。
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