「彼女はタルクパウダー(ベビーパウダー)のせいで卵巣癌になり死亡した」として遺族が訴えていた裁判があるのですが、アメリカ ミズーリ州の裁判所はジョンソン・エンド・ジョンソンに7200万ドル(約80億円)の賠償を命じました。
この亡くなった女性は35年間、タルクパウダーを女性器に付けていたそうで、それが原因で卵巣癌になり死亡したと裁判所が認定しました(アメリカ人女性の約2割が女性器にパウダーを付ける習慣があるそうです)。
裁判所がタルクパウダーと卵巣癌の因果関係を認めたのはそれなりの根拠があるからです。
裁判所が根拠にしている資料は分かりませんが、私が知っている研究を紹介します。
アメリカのBrigham and Women’s Hospitalという病院の博士が「2000人の卵巣癌の患者」と「2000人の健康な人」を対象に調べたところ、タルクパウダーを使っている人は卵巣癌になるリスクが3割高かったという。
それにしてもタルクの何が悪いのか。
タルクとは鉱物の一種なのですが、アスベストが一部含まれている場合があるそうです。
今の日本の法律ではどんな製品でもアスベストを0.1%以上含んでいては販売できませんので、日本製であればアスベストの混入に関しては安心です。
もうひとつ、タルクに関して不安をぬぐえない問題があります。
それはタルクとアスベストの構造式が似ていることです。
タルクが
3MgO・4SiO2・H2O
アスベストが
3MgO・2SiO2・2H2O
構造式が似ているからと言って即危険ということにはなりませんが、不安な要素ではあります。
タルクパウダーを使う人に卵巣癌が多いということはタルクの何かしらの要素が卵巣癌を引き起こした訳であり、それが分からない限り気軽には使えません。
[参考資料]
アスベスト様透角閃石を含むタルクの採鉱者および製粉工を対象とした比例死亡率研究では、過剰な 肺癌および1例の中皮腫が明らかになった。
透角閃石、直閃石、蛇紋石の鉱物を含むタルクの採鉱お よび製粉に従事する労働者を対象とした他のコホート研究では、肺癌および非悪性呼吸器疾患による 顕著に過剰な死亡率が明らかになった。
肺癌による死亡率は潜伏期とともに増加した。1)(IARC Monographs, 1987)
シリカおよびタルクに曝露する陶器製造者を対象としたコホート研究では、過剰な肺癌リスクが明らかになった(標準化死亡比〔SMR〕143:観察された死亡数52、期待死亡数36.3)。
高濃度のシリカに曝露した人の中では、非繊維性のタルクに曝露した人のSMRが254(観察された死亡数21、期待死亡数8.3:P<0.05)であったのに対し、タルクに曝露しなかった人のSMRは137(観察死亡数18、期待死亡数13.2:P>0.05)であった。
肺癌による死亡率はタルクへの曝露期間が長くなるにつれて増加した(曝露が15年以上に及ぶ人のSMRは364)が、シリカへの曝露期間は長くなっても増加することはなかった。
「日本医薬品添加剤協会」より引用
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