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レディーガガが患っている線維筋痛症。セックスすれば治るという偏見

この記事は50代の女性に書いていただきました。

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2017年9月13日ドキュメンタリー「Gaga: Five Foot Two」公開に合わせて、マルチな才能を全世界に発信中のミュージシャン、ガガ様ことレディーガガが自ら、婚約者であった俳優との破局、そして難病「線維筋痛症」の罹患および闘病中であることを公表しました。

彼女は同時にTwitter上でも自身の病気についてカミングアウトされました。

「ドキュメンタリーの中で話した#慢性疾患 #慢性の痛み。これは線維筋痛症なの」

「私はこの病気について人々に知ってもらいたい。そして同じ病気の人達とつながりたい。そう願っているわ」

「氷が効くかと思ったけど、間違っていたわ。余計に酷くなってしまった。あたためる方が良いの。電気毛布、赤外線サウナ、エプソン風呂などよ」

「活動をスローペースにして、癒されたいの。それが重要なことだから」
(レディー・ガガご本人のtweetより抜粋)

実は私自身、レディー・ガガも闘病中の線維筋痛症、そして類似疾患である筋痛性脳脊髄炎、さらには脳脊髄液減少症という病気で昨年夏から事実上の寝たきり状態に陥っているのです。現在、硬膜に穴が開いてしまっている私は、患部から脳髄液が漏れて激しい全身疼痛と眩暈に苛まれ続けています。

※日本国内においては「慢性疲労症候群」と呼ばれることが多いが、病名の安直さから社会一般に誤解を招いている部分が否めないため、現在は正式病名を「筋痛性脳脊髄炎」と変更する方向性で議論が持たれている。

レディー・ガガがカミングアウトした線維筋痛症や筋痛性脳脊髄炎、脳脊髄液減少症は、ある種の自己免疫疾患だろうと専門家の間では考えられつつも、今のところ日本においては精神科で治療する病気だとみなされています。

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支援に繋がらない難病患者の現状

正式診断すらきちんとつかない病気であるため、治療には自由診療、つまり自費によるところが大きく(つまり保険診療分しか賄われない生活保護受給者は治療も満足に保障されてはいない)、激痛に寝たきり状態になって出費が嵩むにも拘らずアルバイトやパートもできない患者さんが過半数だという厳しい現実があります。

それほどの難病でありながら「正式診断すら下されない」病気であるために、障害年金はじめ各種の福祉の制度に結びつかない患者さんが大半です。

寝たきりであっても身体障害者手帳が取れないケースが殆んどなことから、手帳によって保障されているホームヘルプサービスや車椅子や杖などの補装具も提供されません。一説によれば、これらの病気にかかった患者さんの一割、いや二割が、生活苦や病気に伴う激痛による絶望によって自死を選んでいるという話すらあるほどです。

患者の大半が女性であることから来る偏見も当事者を悩ます

本当に起きていられないほどの痛みに24時間苛まれているにも拘らず、これらの病気を治療できる専門医は都内に20名程度、全国的に捉えても100名いるかどうかという状況です。

そもそもこの病気の存在すら知らない医療従事者が殆んどという実態において、私たち患者は幾つもの医療機関をたらい回しにされ、最終的にはその殆んどが精神科で抗うつ剤を投与される結果になっています。

いわゆる「仮面うつ病」だと診断される若しくは身体表現性障害(最近「身体症状症および関連症候群」と言い換える精神科医が増えた)と医師にさえも思われてしまうのです。平たくいえば「ヒステリー」です。

実際にこれらの病気を患う患者さんの多くが女性だからでしょうか。現代医学において「ヒステリー」とは正確には身体表現性障害を指すのですが「古代ローマにおいて「ヒステリー」は婦人科の病気と考えられていた」と筋痛性脳脊髄炎と正式診断された三十代のアメリカ人女性・ジェニファー・ブレアさんが語っていました。

※TED ジェニファー・ブレアさんのプレゼンテーション
https://www.youtube.com/watch?v=Fb3yp4uJhq0&t=15s

彼女のプレゼンテーションによればその昔、医学の父・ヒポクラテスは婦人科の病気と思われていた「ヒステリー」について、配偶者とのセックスに満足できない女性が、欲求不満の余り心身に支障をきたす病気だと発表したんだとか。つまり、セックスに不満さえなければ女性に特有の心身の不調は改善すると考えていたのだそうです。

そのヒポクラテスの考えを多くの医師がエビデンスと考えている現実があるのだと電動車椅子に乗った彼女は映像の中で口惜しさの余り時折涙ぐみながら訴えていました。

彼女もまたベッドから起き上がれないほどの激痛を押して、今は入籍を果たした当時の婚約者と病院巡りの憂き目に遭い、受診する先々で「セックスすればすぐ治ります、彼ときちんとやっていますか」と鼻で笑われつつ医師にひたすらあしらわれ続けたのだそうです。

その彼女のスピーチを観ているやはり車椅子の私も涙してしまいました。私も三十代の頃から烈しい激痛に苦しみ始めたのですが、当時は(私は気乗りしていない)元夫との不妊治療を彼の実家から半ば強いられ、しかし彼との関係は悪化していく一方だった経験があるからです。ちょうどその折、私も映像の中の彼女と同じことを何人もの医師に言われ続けて心が折れました。

絶対数が不足!診断治療可能な専門医、そして医療機関

現在の私の主治医はこれらの病気のエキスパートだと都内でも名高い先生です。しかしながら先生のところに辿り着くまで、私は20か所以上の病院を受診、時にはどうしようもなくなって精神科をメインに整形外科や内科など、幾つもの病院に入院となりました。きちんと病名がつき、正式診断を受けるまでに10年以上の歳月を要しました。

しかし、診断がついても、これらの疾患を専門的な視点から治療できる医師の数は限られています。現在、私はとても遠方の主治医のクリニックに片道2時間以上をかけて通院しています。

私は今、車椅子ユーザー用の都営住宅でのひとり暮らしであり、車椅子に乗った状態で介助もなく、全身を襲う激痛を堪えながら公共交通機関を利用しての通院…というのは本当に苦痛以外の何物でもありません。

私には生まれつきてんかんがあり、さらに病気によって一日中眩暈を生じてしまうことから免許は返納、車の運転すら今はできなくなりました。雨の日は合羽を着て車椅子を自走、という事態に陥りますが、本当につらくて泣けてきます。

どうにか先生のクリニックに辿り着けても予約を入れているにも拘らず、診察は現状2時間以上待ちの状態になっています。それだけこの病気を診られる医師が不足しているのです。

クリニックには診察の順番待ちの患者さんが溢れ、息苦しくなるほどです。診察希望者が多い時には、私のような車椅子の患者は、クリニックの外の(クリニックがテナントとして入っている)雑居ビルの通路で待たされる羽目になります。

それでも…これらの痛みの緩和に有効だとされるリリカやサインバルタを処方して欲しくて、多くの患者さんが狭いクリニックですし詰めになり、自動ドアの外に溢れつつも、痛みの専門を標榜する先生の診察を、ただ全身疼痛を我慢しながら待つのです。

治療のためにクリニックの門を叩いているいるはずなのに、私には月一回の通院すらもつらくて、自身のキャパを超えた疲れと痛みのために、毎回通院後少なくとも三日はベッドで寝込んでしまいます。

難病に苦しむ当事者の今後

この病気をもっと多くの医師が正しく理解し、患者の実態を知ってくださったならば治療できる医師の数も大幅に増えて、私もここまで苦しみつつ遠方まで通院しないで済むのにと口惜しくなります。

だからこそ、今回のレディー・ガガのカミングアウトには、ガガ様と同じ病気に苦しんでいる患者のひとりとして、とても勇気付けられました。

現在のガガ様は自前の黄金の車椅子に乗って、昼夜問わず彼女を襲う激しい痛みに苦しみつつも、前向きなその闘病の様子をSNSなどを活用して全世界に発信中だとのことです。「黄金の車椅子」というのがまた、レディー・ガガのガガたるところだなあとリスペクトしました。

ガガ様のようにはとてもいかない私ではありますが私もまた黄金ならぬピンクの車椅子の上から、微力ながらもライターとしてこれらの病気について随時情報発信し、ひとりでも多くの人とつながり合えるようにがんばりたいと思っています。

医学は日進月歩であり、社会もゆっくりながらも動きつつあります。2012年6月に、それまで自費扱いだったリリカ(プレガバリン)が線維筋痛症の治療薬として保険適応薬として認可されたのに続いて、2016年4月には脳脊髄液減少症の手術として自己血で硬膜に空いた穴を塞ぐ「ブラッドパッチ」も健康保険適応となりました。

ガガ様のような影響力のある人物が声を挙げるのに併せて、市井の私たち一人ひとりも、当事者として声なき声を挙げることによって、現状はまだ救済されていない患者が救われて欲しいと心から願います。

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