近年、視力矯正の選択肢として注目を集めているのが「ICL(Implantable Collamer Lens:有水晶体後房型眼内レンズ)」手術です。
従来のレーシックに比べて安全性が高く、強度近視にも対応できることから、多くの近視患者がこの手術を検討するようになりました。しかし、どんな医療行為にもメリットとデメリットが存在します。本稿では、ICL手術の基本情報から、そのメリットとリスクを詳しく解説します。
ICL手術とは何か?
ICL手術とは、眼内に人工のレンズを挿入して視力を矯正する屈折矯正手術の一つです。レーシックのように角膜を削るのではなく、水晶体の後ろに柔らかいコラマー素材のレンズを挿入します。このレンズは取り外し可能で、永久的なものではないという点が特徴です。
手術の基本的な流れ
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適応検査:眼の形状や度数、角膜の厚みなどを詳細に測定。
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レンズのオーダーメイド作成:検査結果をもとに、個人の眼に合わせたレンズを作成。
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手術当日:局所麻酔下で行われ、片眼10~15分程度で完了。
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術後の管理:定期的な通院で状態を確認。
ICL手術のメリット
1. 角膜を削らないため安全性が高い
レーシックでは角膜を削る必要があるため、角膜の厚さが十分でないと手術ができないケースもあります。しかし、ICLは角膜を削らないため、角膜に対する物理的なダメージが少なく、安全性が高いとされています。
2. 強度近視にも対応可能
レーシックでは矯正可能な近視の度数に限界がありますが、ICLは-18D(ディオプター)程度の強度近視にも対応できる場合があり、従来の手術で矯正できなかった患者にも効果が期待できます。
3. 視力の質(コントラスト感度)が高い
ICL手術を受けた患者の多くは、「見え方が鮮明になった」「夜間でもクリアに見える」といった高い視覚的満足感を報告しています。これは、コラマー素材のレンズが目にやさしく、光の散乱が少ないためと考えられています。
4. 可逆性がある
ICLレンズは取り外しが可能なため、何かしらの理由で視力矯正の方法を変更したい場合には、レンズを除去することができます。この「可逆性」は、角膜を削ってしまうレーシックにはない大きな利点です。
5. ドライアイになりにくい
レーシックでは角膜の神経が一部切断されるため、術後にドライアイが悪化するケースがあります。一方でICLは角膜を傷つけないため、ドライアイになりにくいとされています。
ICL手術のリスクとデメリット
一方で、ICL手術にも無視できないリスクやデメリットがあります。以下に代表的なものを挙げます。
1. 白内障のリスク
眼内に異物(ICLレンズ)を入れることによって、水晶体への影響が懸念されます。特に過去には、レンズが水晶体に接触することで白内障を誘発するケースが報告されていました。近年のレンズは改良されており、そのリスクはかなり低減していますが、ゼロではありません。
2. 眼圧上昇・緑内障のリスク
ICLレンズの位置やサイズが適切でないと、房水(眼内の液体)の流れが阻害され、眼圧が上昇する可能性があります。これが進行すると緑内障に繋がるリスクもあるため、術後は定期的な眼圧チェックが欠かせません。
3. 虹彩炎や感染症
手術中や術後に、眼内に細菌が侵入することによって炎症(虹彩炎)や感染症が起こる可能性があります。術後の点眼薬使用や清潔管理が非常に重要です。
4. 光のハローやグレア
暗所での見え方に問題が生じることがあります。特に夜間、ライトが滲んで見える「ハロー」や、光がまぶしく感じられる「グレア」はICL手術後によく報告される副作用です。時間とともに慣れる人も多いですが、完全に解消されないケースもあります。
5. 費用が高額
ICL手術は保険適用外であり、自費診療となるため、費用が高額です。一般的に片眼30万~40万円、両眼で60万~80万円程度が相場です。これはレーシックに比べて高価であり、手術を受けるかどうかの判断材料となります。
ICL手術はどんな人に向いているか?
以下のような人にICL手術は適しています。
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強度近視や乱視があり、レーシックが適応外である
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角膜が薄く、レーシックに不安がある
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可能な限り視力の質を追求したい
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将来的に変更可能な矯正手段を求めている
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ドライアイがあり、角膜を削りたくない
一方で、以下のような方には注意が必要です。
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白内障や緑内障など、既往歴がある人
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免疫疾患や慢性的な目の病気がある人
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術後の管理が難しい人(定期検査に通えない等)
結論:ICLは“高性能な矯正手段”だが“完全無欠”ではない
ICL手術は、従来の視力矯正手術の課題を克服する画期的な選択肢として評価されています。特に強度近視や角膜の厚みが足りない人には、大きな希望となる治療法です。しかし、眼内に異物を入れるという点において、リスクが全くないわけではありません。
したがって、手術を検討する際には、信頼できる眼科医と十分な相談を重ね、術前検査・術後管理も含めてしっかりと理解した上で判断することが重要です。視力回復というゴールに向かって、自分に最も適した方法を選ぶためには、情報と理解、そして慎重な選択が不可欠です。
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